次期社長の甘い求婚
最初はむしろ付き合っていることにした方が、なにかと嫌な思いをしてしまうんじゃないかと思ったけれど、神さんの言う通りそういったことは一切ない。


みんなに嘘をついている状態で、今みたいに言われちゃうと申し訳なく思うっちゃうときもあるけれど、今の状況にはホッとしている。


それに“神さんと付き合っている”と周囲に言われても、不快に思うどころか、“嬉しい”と思えてしまうのだから。



「小野寺さん~ごめん! 資料室の整理、一緒にお願いしてもいいかな?」


午後の勤務に入って約一時間。聞こえてきたのは鈴木主任の頼りない声。


顔を上げ見ると、両手を顔の前で合わせ頭を下げていた。


もしかしてまたすっかり忘れちゃっていたのかな?


見慣れた姿に、口元が緩んでしまう。


「大丈夫ですよ、今は急ぎでやらなくちゃいけない仕事はありませんので」


打ち込んでいたデータを保存し立ち上がると、鈴木主任は顔を綻ばせた。


「ありがとう、助かる!! 悪いんだけど早速いいかな?」

「はい」


余程急いでいるのか、足早に歩き出した。

同僚達に資料室に行くことを告げ、庶務課を後にした。
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