次期社長の甘い求婚
切れた電話口に向かって言ってしまう。


スマホをテーブルに置き、ソファーの背もたれに体重を預けた。


「そうだよね……神さん、あと少ししたら次の研修場所に行っちゃうんだよね」


誰もいない静かな部屋には、異様に自分の声が響いてしまう。


全国に営業所や製造工場がある我が社。

次の研修場所が地方だったら、しばらく会えなくなる。

いや、しばらくどころじゃない。……もしかしたら、もう二度と会えなくなってしまうかもしれないんだ。


そう思うと寂しくもあり、胸が痛んでしまう。


その理由はやはり、神さんが好き……だからだよね。


本当は薄々気づいている。自分の気持ちなのだから、他人よりも自分が一番理解している。


素直に認めたくなかったのは、怖いからだ。

鈴木主任の言う通り、相手が神さんだから。


今は私のことを好きと言ってくれる。大切にしてくれているのが、伝わってくる。

でも、それはこの先もずっと続くの……?

お母さんのようにならない保証はある?
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