次期社長の甘い求婚
この会社に勤めていて、神さんのことを知らないわけないじゃない。

きっと非常勤勤務の人だって、知らない人はいないはず。


「今は営業部でノウハウを学んでいるところなんだ」


「……はい」


もちろん知っております。


曖昧な返事を返すばかりの私に、神さんは不思議そうに首を傾げた。


「あれ……? もしかして名乗るまでもなく、俺のこと知っていた?」


名刺を受け取っておきながら、こんなことは非常に言いづらいことだけど、事実なのだから仕方ない。

歯切れ悪く「はい」と返事しながら頷くと、神さんは鳩が豆鉄砲を食ったようになる。


「え……嘘だろ? 俺のこと知っていてスルーしたのか?」


自惚れ百パーセント発言に、頬が引きつってしまう。


余程自分の容姿や家柄に自信がおありのようで。

きっと今まで声を掛けたら「キャー!」って感じに反応されていたんだろうな。


申し訳ないけど、私は他の女性社員のような反応をすることはできない。
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