次期社長の甘い求婚
誰もいないエレベーターホール。

腕を掴まれたまま神さんを見上げてしまうと、彼は顔を綻ばせた。


「びっくりした。まさかこの時間まで美月が、会社にいるとは思わなかったから」


話しながら離されていく腕。


会いたいと思っていた彼が突然目の前に現れ、気恥ずかしくなってしまい、意味もなく髪を耳にかけて目を伏せてしまう。


「仕事が終わらなくて……」

「そっか」


少し間が空くと、神さんは窺うように尋ねてきた。


「美月、この後時間ある? もし大丈夫だったら、久し振りに食事行かないか?」

「え、食事ですか?」


顔を上げれば、神さんはどことなく照れた様子で目を泳がせている。


たったそれだけだというのに、一々胸がキュンとしてしまうのだから厄介だ。


「そ。俺もメールとかチェックして帰るだけだから」


ハニカミながら誘ってくる姿は、出会ったばかりの神さんからは想像もできない。

あの頃は軽々しく誘ってきていたのにな。
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