次期社長の甘い求婚
あっという間に目的の階に着くと、神さんはゆっくりと私の身体を離し、困ったように笑いながら見下ろしてきた。


「悪い。……なんか無性に美月のこと抱きしめたくなって」


そう言いながら頭に触れたのは、神さんの大きな手。

優しい手つきに、心臓はさらに暴れ出してしまう。


「邪魔じゃないから。……隣に座って待っててくれる?」


優しい声色に頷くだけで精一杯だった。


すぐに頭上に触れていた大きな手は離れていき、手を握られたと思ったら、神さんはゆっくりとエレベーターから降り歩を進めた。


いくら定時を一時間以上過ぎ、残っている社員が少ないとしても、いつ誰に見られちゃうか分からないのに――。


「あの、神さんっ」


「手を離してくれませんか?」そう言おうとしたけれど、すぐに神さんの声が被せられてしまった。


「急いで終わりにするから、なに食べたいか考えておいて」


「分かった?」と訴えるように見つめられてしまっては、なにも言えなくなってしまう。
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