次期社長の甘い求婚
咄嗟に足を踏み出してしまった瞬間、制止するように繋いだままの手を強く握り返されてしまった。


すぐに神さんを見れば、今にも泣き出してしまいそうな目で私を見つめたまま、ゆっくりと首を横に振った。


「行こう」


そしてオフィスにいるふたりに聞こえないよう囁くと、来た道を歩き出す。


そんなこのままでいいの……?

あんなの、一方的な嫉妬だ。自分のことを棚に上げて、神さんのことをバカにして。


私は同じ配属先ではないし、神さんの仕事ぶりを目の当たりにしているわけではない。

それでも亜紀から聞いたり、神さん本人が話してくれた仕事に対する姿勢を聞いている。

誰よりも努力していることだって知っている。


それは誰よりも一番神さんが分かっているはず。


言ってもいいのに。
あのふたりに啖呵切ってガツンと文句を言ってもいいのに。


どうして神さんは逃げるように、営業部のオフィスを後にしちゃったの?


疑問は募るばかり。


お互い無言のまま足を進めエレベーターに乗り込むと、神さんは重い口を開いた。
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