次期社長の甘い求婚
「忙しいのに、付き合ってくれたのかな?」


窓から走って会社に戻っていく亜紀の姿を見送っていると、申し訳ない気持ちになってしまう。


神さんが忙しいように、亜紀だって忙しいってことくらい、重々承知しているから。


それなのに亜紀は、毎日のように電話をくれて早く告白するよう促してきたり、その日一日の神さんの様子や、次の日の予定をこっそり教えてくれていた。


「会えなくなっちゃったら、言えなくなっちゃうよね……」


窓の外の景色を見ながら、ポツリと呟いてしまう。


頭の中では分かっているのに、あと少し経てば関東営業所から神さんがいなくなってしまうってことが、実感できない。


会えなくても連絡取れていたし、社内で神さんの噂を聞かない日はなかったから。


けれど異動してしまえば、嫌でも実感しちゃうんだろうな。
神さんが関東営業所にいないってことを――。


やっと好きって認識した途端、気持ちは一気に加速するばかりだった。


会えない分気持ちは募っていって、伝えたいのに伝えられないジレンマに悩まされる日々。


亜紀の言う通り、待っているだけじゃダメかもしれない。

自分から行動に出ないことには、神さんに気持ちを伝えることができない。


でも好きだからこそ躊躇してしまうんだ。
< 215 / 406 >

この作品をシェア

pagetop