次期社長の甘い求婚
「あ~でも本当に安心した!! これから先もずっと美月が冴えない眼鏡のことを好きだったら、どうしようかと何度思ったことか……」


泣き真似をしてハンカチまで出して、流してもいない涙を拭う姿に呆れてしまう。


「嬉しいような、嬉しくないような……複雑な気分なんですけど。それに鈴木主任に失礼だって何度言えば分かるのよ」


いまだに亜紀は鈴木主任のことを〝冴えない眼鏡〟なんて呼んでいるんだから。


「いいじゃん、呼び方なんて」


こっちは怒っているというのに、亜紀は全く堪えていない様子。


「恭様がうちにいるのも、残りわずかじゃない? それまでに美月が告白できなかったら……って気に病んでいたけど、そこまであんたがヘタレじゃなくて、本当によかったわ~」


喜んでくれているのか、けなされているのか分からなくなるけれど、でもまぁ……後者だよね。


「……美月も、もう聞いているんでしょ? 恭様の次の研修場所」


「……うん」


先ほどよりワントーン低い声の亜紀に釣られるように、低い声で返事をしてしまった。


神さんはあと二週間で次の研修場所へと異動することが決まった。
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