次期社長の甘い求婚
「それ、持っていようか」

「――え、キャッ!?」


不意に声を掛けられた瞬間、身体は大きくバランスを崩していく。


「っ危ないっ!!」


足を踏み外してしまい、慌てて手にしていた蛍光灯を離し踏ん張ろうとするものの、その努力は虚しく後ろへと身体が落ちていく。


一瞬にしてこの後襲ってくるだろう痛みにギュッと瞼を閉じる――が、私の身体を受け止めたのは冷たい床ではなく、温かいぬくもり。


ガシャンと手から落ちた蛍光灯が落ちる音と、安心したように漏らされた吐息交じりの声が耳に響いた。


「ッセーフ……」


大きく吐き出された息と共に、背中に回されていた腕に力が入った瞬間、嫌でも神さんの吐息もぬくもりも至近距離に感じてしまう。


しばし放心状態だった私の脳は、すぐにフル回転し始めた。


「すっ、すみませんでしたっ!!」


助けてもらっただけ。頭ではそう理解できているのに、神さんに抱き留められている状態に動揺を隠せない。

拍車をかけるように、咄嗟に離れようとした私の身体を『離さない』と言わんばかりに、さらにきつく抱きしめてきたのだから。
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