次期社長の甘い求婚
背中に触れていた彼の手はゆっくりと私の後頭部に触れ、優しい手つきで撫でていく。


あ、れ……なにこれ。
どうしちゃったんだろう、私。……呼吸の仕方が分からない。


生きていく中で必要不可欠な呼吸法が分からなくなるなんて――。


蕩けるような眼差しから逃れるように視線を彼の胸元に向けると、やっと呼吸ができるようになり、息を漏らした。


けれど抱きしめられている状況には変わりない。

いや、抱きしめられている……というよりも、傍から見れば私が神さんを押し倒している図だ。


こんなところを社内の人間に、とくに噂大好きな女性社員に見られたら、なにを言われるか……!

ちょっと想像しただけでゾッとしてしまい、必死に身体をバタつかせ抵抗すると、頭上からはクスクスと笑い声が聞こえてきた。


「それで精一杯抵抗しているつもり? ますます可愛くてツボなんだけど」


まるでぬいぐるみを抱きしめるかのように両腕でギュッとされた瞬間、身の毛がよだってしまう。


ほっ、本当になんなの? 私、昨日キッパリと興味ないって伝えたよね? これじゃまるでますます興味を持たれてしまった感が否めないんですけど。
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