次期社長の甘い求婚
三年前から勤めているのは、この町に古くからある小さなお菓子の製造工場。

駄菓子を取り扱う我が社は、総従業員数三十人ほどの本当に小さな工場だ。


それでもいまだに駄菓子の需要はあり、少ない人手ながら安定した業績を上げている。


そこで私は松田さんと共に事務員として働いている。


松田さんは四十代の肝っ玉母さん的な存在。
常に社員の世話を焼いてくれている。


ここで働く従業員みんないい人達ばかりで、一番年下ということもあって、まるで娘のように可愛がってもらえていた。


「おはようございます、松田さん、小野寺さん」


就業時間前、松田さんと休日の他愛ない話をしていると、頼りない声が聞こえてきた。


「おはよう専務」

「おはようございます、鈴木主任……じゃなくて、専務!」


松田さんに続いて挨拶したものの、いつもの如く昔のクセでつい“鈴木主任”と呼んでしまい、慌てて訂正した。


「あらあら、美月ちゃんってばまた間違えちゃって」


すかさず突っ込んできた松田さんに、返す言葉が見つからない。

苦笑いしてしまっていると、作業服に身を包んだ鈴木主任があのあどけない笑顔を見せた。


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