次期社長の甘い求婚
どうにか言葉を返すと、鈴木主任はまた「ごめん」と呟いた。


「でも嘘でも冗談でもなくて本気だから。……ゆっくりでもいいから、考えてくれないかな? 俺との将来のこと」


鈴木主任との将来――。


「……はい」


頷くと安心したように肩を撫で下ろし、「着替えてくるね」と言いながら、そそくさと給湯室を出ていった。
その姿を見送りながら思いを巡らせてしまう。


ずっと憧れていた。

鈴木主任となら、平凡でも穏やかで幸せな生活が送れるだろうと。
それが夢だった。


それに彼のご両親は優しくて素敵な人だ。
私を本当の娘のように可愛がってくれているし、なにかと気遣ってくれている。


一度は好きになった人だもの。……この先もずっと一緒にいたら好きになれるはず。


それに結婚して大好きな職場のみんなと一緒に仕事をしていく、なんて素敵な未来じゃない。
私がずっと望んでいた幸せなはず。


なのになぜだろうか。
どうしても神さんの顔が浮かんでしまうのは――。

もう神さんは私のことなんて好きじゃないのに。他に恋人がいる人なのに。

苦しい思いを抱えながらみんなの分のお茶を用意していった。
< 351 / 406 >

この作品をシェア

pagetop