次期社長の甘い求婚
『だったら話は早い。前向きに考えてみたら? そうしてくれると私も安心してお嫁に行けるから』

「亜紀……」


“お嫁に行ける”なんて冗談めいて言っているけれど、それは本当の話だった。


電話中に見てしまうのは、テーブルに置いてある亜紀から届いた招待状。


一ヵ月後、亜紀は以前から交際していた彼と、都内の教会で親族と親しい友人だけを招き、結婚式を挙げる予定だった。


親友として行きたい気持ちは強いものの、神さんがいる東京に行かなくてはいけない……と思うと、なかなか決心がつかずに出欠の返事を出せずにいた。



『それといい加減結婚式の返事をよこしなさいよね! まぁ、美月がなんて言おうと絶対に来てもらうつもりだけど。……それにいい機会じゃない、いつまでも怖がっていないで東京に来なさいよ。むしろ恭様に会って、「結婚おめでとうございます」って言ってやったら? そうすればあんただって、前に進めるんじゃないの?』


容赦なく思っていることを言うところは、今も健在だ。
けれど亜紀の言うことはいつも正しい。


もう三年も経つんだもの。いい加減吹っ切らなくちゃだよね。
神さんは自分の人生を歩み始めているんだから。


私も前を見なくちゃいけないのかもしれない。


「ごめん、招待状の返事すぐに出すね。……もちろん出席で」


東京へ行こう。
逃げてばかりではダメだもの。
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