次期社長の甘い求婚
『……はい、今も父の指導を受けながら勉強の毎日です』


昔と変わらない笑顔でインタビューに答える彼の姿に、胸が締めつけられていく。


ズルイよ、神さん。

このタイミングで私の前に現れちゃうなんて。
しかもなに? テレビ越しとか。


それでも久し振りに見る神さんは元気そうで安心すると同時に、切なくなってしまう。


本当に神さんは神さんの道を歩んでいるんだよね。


きっとこの三年間、大変だったと思う。
努力家な神さんだからこそ、今の地位があるんでしょ?


テレビに映る神さんに問い掛けてしまう中、隣から鈴木主任が周囲に聞こえないようにそっと耳打ちしてきた。


「小野寺さん大丈夫? ……こっそりチャンネル変えようか?」

「鈴木主任……」


隣を見れば、眉を下げ私の様子を窺う鈴木主任と目がかち合う。


彼に神さんのことを一度も話したことはない。……それでも分かってしまうよね。
私が神さんと別れてここにやって来たと。


前に進むって決めたんだ。

それに今後、こういうことは何度もあるかもしれない。
神さんがテレビや雑誌に映ることが。


そのたびに目を背けていたら、いつまで経っても私は前に進めないよね。


気持ちを入れ替え、いまだに心配そうに私を見つめる鈴木主任に笑顔を向けた。
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