次期社長の甘い求婚
同意するように何度も頷き、足早に自分のデスクへと急ぐ。


椅子に腰かけた瞬間、緊張が解け大きく息を吐いてしまう。

そしてパソコン越しに鈴木主任をチラッと見るも、彼はまたてんやわんやになりながら、散らかりっぱなしのデスクの上で、なにかを探していた。


こっちはこんなに動揺させられたっていうのに、全くなんだもんなぁ。


完全に私は恋愛対象外なんだろうな。きっと婚約者である彼女のことしか見えていないんだ。

そう思うと虚しくなる。


私はこんなにも本気で鈴木主任のことを想っているというのに、相手にはこれっぽっちも気持ちが届いていないのだから。


ふと〝本気〟というワードで、思い出してしまうのは神さんのこと。


『本気でいくから』なんて言っていたけど、私が鈴木主任を想う本気の気持ちとは、比べ物にならないでしょ? きっと。

いや、むしろ本気じゃないはず。……本気なら、易々と言葉を口になどできないものだから。


心の中で想っているだけで精一杯で、相手にはなにひとつ伝えられない。

好きってそういうことでしょ? 神さんの恋愛性質は計り知れないけど、簡単に〝本気〟って言葉を使わないで欲しい。


神さんへの不快感を募らせながら、仕事をこなしていった。
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