レーザービームの王子様



「深町さん。まさかですけど、それ飲もうとしてるわけじゃないですよね?」

「え?」



突然耳に届いた声に、私はハッとして顔を向ける。

見ると、たまたまデスク横を通りかかったらしいイケメン印南さんが、相変わらずの無表情で私の手元を指さしていて。

視線をたどるように自分の右手を見れば、毎日家から持参しているマイタンブラーを持っていたつもりが、どうしてかペン立てを握りしめていた。



「ぅわ??!」

「……深町さん大丈夫ですか? まだ週中ですよ? 金曜の夜まで生きられますか?」

「だ、だいじょうぶです……」



そんな、眉ひとつ動かしもせず淡々とたたみかけることないじゃないですか……。

印南さんの無感情トークで地味にダメージを受けつつ、とりあえずペン立てをデスクに戻した。

何事もなかったかのように去っていくその背中を視界の片隅に入れながら、今度こそタンブラーのお茶をちびりと飲む。


今日は週の半ば、水曜日だ。……つまり私のことがすきだという幼なじみの爆弾発言から、すでに4日が経つ。

総司は、今週中早く上がれそうな日に連絡するって言ってたけど……今のところ、奴からその件に関する連絡は来ていない。


あー、もう。なんなのもう。あの日から私、頭の中『どうしようどうしよう』って、そればっか。

総司のことは、たぶんこの先も幼なじみを越えた対象には見られないと思う。……思うのに、あの日私は、それをはっきり伝えられなかった。


怖いんだ。私が総司を拒絶することで、今までみたいに接してくれなくなるんじゃないかって。

でもそれって、すごく自分勝手でずるい考えだ。保身のために、結果を出すのを先送りにしてるだけ。



『俺は昔から、おまえしか見てなかった。今さら、他の男に持ってかれてたまるかよ……!』



……バカ総司。私の返事がどうあれ……総司は、今までと関係が変わっちゃうこと、怖くなかったの?

私は答えを出す前から、こんなにも怯えてしまっているのに。
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