レーザービームの王子様
そしてそうやってあの日の告白のことを思い出しながらも、思考の一部は、また別の人物が支配していて。



「(……メッセージはなし、か)」



デスク上のスマホを盗み見て、メッセージアプリの通知がないことに小さくため息。

【むつみ屋】で電話をしたあの夜以降、久我さんからの連絡が途絶えていた。

本来、彼はとても忙しい人で。今まで定期的にやり取りできていたことの方が、逆にすごいことだったのかもしれないけど。

それでも、……もしかして総司とのことを誤解して、気を遣ってるんじゃないか、とか。

私とのやり取りに、飽きてしまったのかな、とか。

考えれば考えるだけ、悪いことが思い浮かんできて。自分の方から連絡を取ることもできずに、今日まで来てしまった。


……もう、ずっと。私はこうやって、久我さんのことばかり考えてしまっている。

それが何を意味するのか。自分でも、気付きかけているのだ。

けれどもそれを認めてしまうのは、久我さんと私の立場の違いを思うと、とても勇気がいることで。



「………」



本当のところ──久我さんは、私と総司が一緒にいるところを見て、どう思ったのかな。

どんなことを考えながら私と水族館を歩いて、観覧車に乗っていたんだろう。

こんなふうに思考を巡らせている時点で、私はもう相当重症。

次に会ったときにはもう、この気持ちは決定的になってしまう気がする。……それなら、このまま連絡を取ることもなく、つながりが切れてしまう方がいいのかもしれない。

彼はプロ野球選手で、私はただのOL。どうしたって、その差は埋まらないから。


定時まで、あと1時間だ。思考を切り替えるため深く息を吐き出し、私は残りの業務へと取りかかった。
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