レーザービームの王子様
「……もう、まるで王子様みたいに思えてきちゃって。私、まんまと惹かれちゃった」



普段の、凛とした微笑みとはまた違う。そう言って照れくさそうにはにかむ柴咲さんは、それでもとても綺麗で。

きっとそれは、恋人である印南さんがかけた恋の魔法というやつなのかも。


そして私は思い出す。

久我さんに呼ばれて観に行ったナイター。試合後に会った彼が、私にくれた言葉。



『うん、そうだな。あんたのせいじゃない』


『だから何か言って来るまわりなんて気にしなくていいし──俺は居酒屋で威勢良く突っかかってきたすみれのことも、嫌いじゃないよ』



いつだって自分らしくいたいのに、他人の評価がふとした瞬間に突き刺さって。

そんなときありのままの私を肯定してもらえたことが、とても、うれしくて。


……ああ、そうだ。

“彼”が、そんなひとだから。

だから、私は──……。



「ふふっ、柴咲さん。『王子様』だなんて、なかなか乙女ちっくですね」

「え。……あはは。いい歳して恥ずかしいこと言っちゃった」



私のセリフに顔を赤くし、誤魔化すようにポーチをしまい始める柴咲さん。

少し前まで、彼女はもっと近寄りがたい“高嶺の花”のような雰囲気の女性だった。

けれども今は、こんなにも気安く会話をすることができる。

この変化も、きっと『王子様』のおかげなのだろう。


私はにっこり、笑顔を浮かべた。



「でも、それって素敵です。……とても、素敵だと思います」



一瞬驚いたような表情をした後、柴咲さんはうれしそうに「ありがとう」と言ってくれる。

少し残業するという印南さんとは、会社近くのコーヒーショップで待ち合わせるらしい。私たちは並んで化粧室を出た。



「もしかして深町さんにも、王子様みたいな人いるのかな?」



エレベーターを待つ間、イタズラっぽく彼女が訊ねてくる。

その質問に、思わず苦笑した。



「王子様というか……『レーザービーム王子』ですねぇ、困ったことに」

「ん? レーザー……?」

「ふふふ。内緒ってことで、お願いします」



私もイタズラな笑みを浮かべ、口元に人差し指を立てる。

会社前の横断歩道で別れるまで、私たちは尽きることなく会話に花を咲かせた。
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