レーザービームの王子様
頭の中がごちゃごちゃしているこんな日は、“あの場所”に限る。



「よおおおし!」



気合いだけは十分に、私は右打席で金属バットを構える。

そうしてタイミングを見計らって振り抜いた渾身のフルスイングは、マシンが放った100kmのストレートボールの下をかすることなく見事に通り過ぎた。


……また、空振りか……!

うなだれる間もなく、LED画像のピッチャーはセットされた球数がなくなるまでどんどん投球を続けて来るわけで。

私は折れそうになる心をなんとか奮い起こし、キッとピッチングマシンを睨みつけて再びバットを構えた。


まっすぐ帰宅はせず、途中で電車を降りた私がいるこの施設は、たまに訪れるバッティングセンターだ。

ボールをバットの芯で捉えて打ち返す瞬間は、素人ながらとてもスカッとする。

だから私はストレス解消も踏まえ、年に数回はこの場所に足を運んでいるんだけど……。



「(くっ、また空振り……!)」



いくら野球好きとはいえいかんせんセンスがないのか、毎度私のバットは宙を空振ってばかり。

観るのと実際やるのじゃやっぱり全然違うよなあって、こんなときしみじみと実感する。

ワンパターンな球しか投げない機械相手でも難しいのに、人間が意思を持って投げた球をホームランにしたりする野球選手はほんとすごい。
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