レーザービームの王子様
橙李お兄ちゃんが生きていた頃も、「ついて行きたい!」とごねて連れて来てもらったことがあるバッティングセンター。

だけどお兄ちゃんと一緒だと、パカパカ打ちまくるお兄ちゃんを見てるのが楽しくてあまり自分では打たなかったんだよね。

今となってはもう少しコツとか教わっておけば良かったなあなんて、こっそり思ったりもする。

それでもたまぁに私がバッターボックスに立つと、いっそ清々しいほどの空振りっぷりにお兄ちゃん爆笑してたっけ。

ムカつくけど、あんまり楽しそうに笑うものだから、つい本気で怒るタイミングを逃しちゃってたんだ。


かろうじてバットに当たったボールが、それでも前には飛ばず足元を転がる。

やっぱり、難しいなあ。私じゃ全然マネできない。

お兄ちゃんがホームランを打つ瞬間の、あんな、かっこいいスイング。私には、到底できそうもない。



「……、」



あ、まずい。今日の私、なんかダメ。

じわりと浮かぶ涙をこらえるため、ぐっと眉間に力を入れた。


お兄ちゃんのことを思い出して泣きそうになるなんてこと、最近はなくなってたのに。

こんなところに来ちゃったからかな。……本気で野球をしてる人と一緒にいる機会が、ここ最近急にできたからかな。


褒めるときはやさしく頭を撫でてくれて。叱るときは、私と目線を合わせるように屈んでくれてた。

大好きだった、お兄ちゃん。

……また、私のへなちょこバッティングを見てあんなふうに笑ってくれたらいいのに。

「やっぱりすみれは下手くそだなあ」、って──。
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