レーザービームの王子様
「……下手くそだなあ」



突然、後ろにあるネット裏の方から聞こえた声に、私は思わず肩を震わせた。

とっさにその人物を見ようと振り向きかけるけど、次の球が来るから構えを解けない。



「力、入りすぎ。バットは短く持って、顔の位置を動かさないように目線を固定する」

「っえ、え……」



マシンからボールが放たれる。不格好に振ったバットはボールの下をくぐり抜けて、空振り。



「大きく振り回しすぎたらダメだ。ボールは迎えに行くんじゃなくて、来るまで待つ。ボールがバットに当たるまで、目を離さないで」



振り回しすぎない。

ボールが来るまで待つ。

目を、離さない。


ピッチングマシンのアームが動き出す。私はぎゅっと、バットを握りしめた。



「……えいっ!」



今までで、1番しっくり来るスイングだった。

高い金属音とともに、白い球が勢い良く前方に飛んで行く。



「や……っやった、飛んだー!」



バットを振り切った体勢のまま唖然と打球の行方を見つめていた私だけど、遅れて来た感動に思わず声をあげた。

今のが、マシンに設定された25球のうち最後の1球だったらしい。バットを持ちながら、両手をあげてバンザイだ。



「おー、上出来じゃん」



そんな言葉とともに、パチパチと小さな拍手が届く。ハッとした私は、そこでようやく後ろを振り返った。
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