レーザービームの王子様



《へぇ~。すみれ、なんかおもしろいことになってんじゃない》



言葉通り、たいそうおもしろがっているようなその声音。

左耳にあてたスマホから届く友人の言葉に、思わずため息を吐いた。



「全然おもしろくないってば、広香(ひろか)。私の今の心境、まな板の上の鯉って感じよ? どれほど憂鬱か……」

《ふーん。でも今まさに、東都ドーム向かってる最中なんでしょ?》

「……そうですけど」



ぼそぼそとつぶやいて、視線を上げる。

目の前には、でかでかとそびえ立つ建物。ちょうど正面にあたるこの場所からは、【TOHTO DOME】というレリーフも見える。


数日前の夜。居酒屋でうっかりケンカをふっかけた相手が、まさかの今をときめくイケメンプロ野球選手だった。

その人物が挑戦的な言葉とともに差し出してきたチケットは、まさに今夜、18時から始まるナイターのもので。

こんなことになるなんて、誰が予想できただろう。軽い気持ちでスローボールを放ったら、スタンド越えの場外ホームランを打ち返された気分。


──でも。



『あんたが嫌いな久我 尚人が活躍する姿、近くでじっくり観てみろよ』



……今思い出しても腹が立つ。あの、ヒトを小馬鹿にしたような、勝ち誇ったような笑み。

正直、あんな挑発無視してしまおうかとも思った。だってどうせ、相手には私の名前すら知られていないし。ていうかぶっちゃけ、私の顔なんてもう覚えていないだろうし?


……なーんて強がりな建前を、本音では結構ビビってしまっている私はここ数日間、頭の中でずっと繰り返していた。

えーと、いくら有名人でも、自分の悪口言ってた一般人をわざわざ探し出して制裁加えたりはしないよねぇ??

いやでも、わかんないかな。久我 尚人、なんか性格悪そうだったしな。

ていうかいきなり試合のチケット渡して観に来させるとか、ほんとあの人何考えてるの??
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