レーザービームの王子様
畳の上に置いた両手を、きつく握りしめている彼。

そのとき私の中で、何かがぷつんと音をたてて切れた。



「……なに、言ってるの?」



ほとんど無意識に、声がもれた。

だるい身体を動かして、ゆっくりと立ち上がる。

お父さんとお母さんの視線を感じながら、それでもまっすぐに“クガ ヒサト”を見据えた。



「お兄ちゃんが死んだのは、まぎれもない事故だよ。誰のせいでもない」

「すみれ、」

「私たち家族は、それをちゃんと知ってる。……誰のせいでも、もちろんあなたのせいでもないってわかってるの……っ」



──熱い。頭も、心臓も。

胸の中にどうしようもないやるせなさが込み上げてきて、自分でもコントロールのしようがない。

もう枯れたと思っていた涙が、また溢れて頬をつたった。



「わ、私たちは、誰のせいにもしてないのに……っあなたが野球をやめなきゃいけない理由を、お兄ちゃんのせいにしないで……!」

「すみれ、やめなさい」



お母さんが、私に手を伸ばして制しようとする。

それを振り払って、涙目のまま“クガ ヒサト”を睨みつけた。


彼は私と視線を合わすことなく、畳に手をついた状態でうなだれている。

その様子で、わかった。この人に、私の言葉は届いていない。

この人はただひたすら、お兄ちゃんや私たちに対する罪悪感に囚われていて。きっとこれから先もずっと、背負っていくつもりなんだ。

……大好きなはずの野球も、遠ざけて。
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