レーザービームの王子様
「……すみれの中から、俺の存在ごとあの約束の記憶はなくなって。だからきみのお父さんには、『すみれが言ったことは気にしなくていい。きみの好きな道を進みなさい』って、言われてたんだ」

「………」

「だけど俺にはもう、そんなの関係なかった。すみれがあの約束を覚えてるか覚えてないかなんて、もう、たいした問題じゃなかったんだ」



脳裏に浮かぶ。あの日私の言葉にうなずいたときの、久我さんの力強い眼差し。

それが今、目の前にいる彼のものと、重なる。



「……俺は、自分でこの道を選んだ。そして今日まで、それを後悔したことなんて一度だってない」

「久我、さん」

「すみれと橙李さんが、俺をここに導いてくれた。ふたりがいたから、俺は“ウィングスの久我 尚人”でいられるんだ」



……だから、ありがとう。


そう言って私の頬を撫でる彼に、また涙が溢れる。

もう、ぐちゃぐちゃだ、私の顔。見られたくないのに、それでも今は、離して欲しくない。



「久我さんは……最初から気付いてたんですか、私のこと」



すん、と鼻をすすって、上目遣いに小さく訊ねてみる。

そんな私を見下ろしながら、やっぱり彼は微笑んだ。



「すぐわかった。だってすみれ、あの頃と何も変わってねーんだもん」

「う……それは、微妙な心境です……」

「はは。……ドームで自己紹介もして、すみれが俺のことまったく覚えてないって改めて知ったときは……正直、ほっとしてた。だってあんな情けない姿、ずっと覚えてられるの恥ずかしいからさ」

「……そんなの……」



視線を外して苦笑する彼を、なんとも言えない気持ちで見上げる。

私はあなたのことを、『情けない』だなんて思ったことないのに。
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