レーザービームの王子様
私がよっぽど、変な顔をしていたのだろうか。

ふっと笑みをこぼした久我さんは、一度静かにまぶたを下ろして。

それからまた、ゆっくりと目を開ける。



「……ずっと。もう二度と、会うべきじゃないと思ってた。すみれにとってあのときのことは辛い記憶だろうから、忘れたままでいた方がしあわせだろうって。俺は俺でプロ野球選手としてがんばれば、約束は果たしたことになるんだから……それでいいんだって、自分に言い聞かせて」

「………」

「だけどそれは、自分に都合の良い言い訳で。……俺、こわかったんだよな。もしすみれに拒絶されたらって考えたら、こわくて会いに行けなかった。ほんと、いい大人が聞いて呆れる」



照れくさそうに言って、彼は私の横髪を耳にかけた。



「……でもあの日、【むつみ屋】で偶然きみを見つけた。会った瞬間、自分の本心に気付かされたよ。……いろいろ自分に言い訳しながら、それでも俺は、ずっときみに会いたかったんだ。この目に俺を映して、泣き顔じゃなくて笑顔を見せて欲しかった」

「……久我さん、」

「会うたび、自分でも驚くくらい気持ちが膨らむからさ。このままだと、いつか無理にでも俺のことを思い出して欲しくなりそうで……だから、一度はきみから離れることも考えたのに。すみれの方から引き止めるもんだから、ほんと、参ったよ」



苦笑する久我さんが、ケガをした左手も私の頬に添える。

ざらざらした、包帯の感触。それすらも気にならないくらい、今私は、彼の存在だけを五感全部で感じている。



「女々しいヤツだって、笑ってもいいよ。それでも俺は、すみれを見つけたあのとき──……」



ドキドキと、いつもよりずっと大きな心臓の音が鳴り止まない。

とろけそうな笑顔で、彼は言った。



「……こういうのを、“運命”って呼ぶんだと思ったんだ」
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