レーザービームの王子様
「だめですよ、久我さん。ケガが……」

「……はあ、そうなんだよな……これさえなければ速攻でベッドに連れて行ってるのに」



私をがっちりホールドしたまま、深くため息を吐く。

ベッド、なんて、そんな恥ずかしげもなく言わないで欲しい……。


羞恥心からもぞもぞ身じろぎする私の頭のてっぺんに、彼は一度キスを落として。



「あーくそ、離れがたいな……えいっ」



ひとりごとが降ってきたかと思えば、久我さんは私の両肩を掴んで自分から引き剥がした。

2つも年上の男の人にこんなこと思うのは失礼かもしれないけど、その子どもっぽい掛け声になんだかかわいい、と思ってしまう。



「コーヒー淹れる……あーくそ、これさえなければ……」



包帯の巻かれた左手に忌々しげな視線を送りながら、何やらブツブツつぶやく彼がキッチンへと向かった。

私はそんな久我さんの様子に思わず笑って、その背中を追いかける。



「久我さんダメですよー、治るまで無理しちゃ」

「わかってます。……すみれ、ケガを治すまでの1ヶ月の間に、ちゃんと覚悟しとけよ?」



言われたことの意味がよくわからなくて、軽く首をかしげた。

久我さんがこちらを振り返ったかと思うと、不意打ちで腰を抱かれ引き寄せられる。



「あんなキスじゃ、全然足りないから。全部俺のものになる覚悟、ちゃんとしといて」

「……ッ、」



ほとんど耳にくちびるをつけながらささやかれ、カッと身体が熱をもつ。

とっさにその顔を見上げれば、意地悪そうな微笑み。



「っぜ、善処します……っ」

「うん。あーでも、それまで我慢できるかなあ俺」

「が、ガマン、してください!」



あわててつっこむ私にふはっと笑みをこぼし、右手の親指で頬を撫でられる。

そのままこちらに向けられた大きな背中をこっそり見つめながら──覚悟ならもうとっくにできてるのかも、と、自分の貪欲さに恥ずかしくなってしまうのだった。
< 184 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop