レーザービームの王子様
「──……うん、そう。毎年命日は、橙李さんの墓参りに行ってたよ」



湯気をたてるコーヒーカップに口をつけながら、隣りの久我さんは答えた。

その言葉に、ああやっぱり、と私は思う。


毎年、私たち家族がお参りに行く頃には、お兄ちゃんのお墓のまわりはすでに綺麗にされた状態になっていて。

朝早くから来てくれる人がいるんだなあと、ひそかに気にはなっていたのだ。


リビングのふかふかなソファーに腰掛け、自分が持ってきたゼリーを味わいながら思い出すのは、つい1ヶ月ほど前の出来事。



「もしかして……こないだの命日のとき、あんなになるまで飲んでた理由って」



私が言うと、カップをテーブルに置いた久我さんは苦笑する。



「あーまあ……俺にとって、6月30日はやっぱり特別な日で。橙李さんの墓前で野球に関することを報告して、こないだはその後ひとりで飲みながらいろいろ考えてた。……まだ、割り切れないところはあるしな」

「………」



割り切れないところ、って。

それはもしかして……お兄ちゃんが事故にあったのは自分のせいだと言っていた、あのことだろうか。


私はじっと、彼を見つめる。



「……久我さんの、せいじゃないですよ」



嘘じゃない。ホントのホント。

私は、……私たち家族は1ミリだって、お兄ちゃんが亡くなった原因が久我さんにあるだなんて思ったりしていない。

そんな想いを込めてつぶやくと、彼はふっと表情を緩めた。
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