レーザービームの王子様
「手のひら、マメがつぶれた痕でボコボコしてる。これって、たくさんバット振って練習したからでしょ?」

「………」

「指の先も、よく見たらタコができて固くなってる。これは、たくさんたくさんボールを投げたからでしょ?」



今の今まで他人だったはずの女の子の、予想外な言動に呆然とする。

一際強く、彼女がきゅっと俺の手を握りしめた。



「……野球をやってない私にだってわかるよ。おにーさんは、がんばってる。がんばってる人のこと、野球の神様はちゃんと見てくれてるの。だから私のお兄ちゃんも、ホームランいっぱい打てるくらい上手くなったんだ」

「……、」

「努力もしないで、『自分は才能ない』ってメソメソするような人ははったおしたくなるけどさ。一生懸命がんばってるおにーさんのこと、私は好きだよ」



風が、彼女のやわらかそうな髪を揺らした。

笑顔で何のてらいもなく紡がれた『好き』という言葉に、鼓動が高鳴る。


……今日初めて会った男に、弱音を吐かれたって──鬱陶しがられるだけだと、思ってた。

こんなことを、言ってもらえるなんて思わなかった。



「、あ……」



ありがとう、とお礼を伝えたいのに、のどの奥が引っかかってうまく声が出ない。

頭の中がぼうっとして、ただひたすら自分のすぐ目の前にいる彼女を見下ろした。


そうこうしてるうち、どこからか「おーいすみれー! 帽子あったかー?!」と大人の男性の声が聞こえてくる。
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