レーザービームの王子様
「あ、お父さん呼んでる。もう行かなきゃ」



声がした方を振り向いて、あっさりと彼女は言う。

何の未練もなくこちらに背を向けた彼女に、あせった俺はようやく言葉を発した。



「あ……っあの、次に投げる試合は勝つから……!」



ただお礼を言いたかったはずなのに、口をついて出たのはそんなセリフで。

何やってんだ俺、とすぐに後悔しかけたけれど。声をかけられた当の本人はこちらを振り返り、夏風に髪をなびかせながら鮮やかに笑った。



「──がんばれ、泣き虫ピッチャーくん!」



白いワンピースを翻し、小さな背中が駆けて行く。


……『スミレ』って、呼ばれてた。たぶん、あの子の名前。

脳裏にはテレビか何かで見たことのある、深い紫色の小さく可憐な花が浮かんでいて。いくつか言葉を交わしただけの関わりしかないのに、あの子にぴったりの名前だ、なんておこがましくも思ってしまう。



「……ありがとう、スミレ」



もう届きはしないとわかっていて、それでもつぶやく。

冷めやらない熱を胸の奥で感じながら、いつまでも俺は、彼女の後ろ姿を見つめていた。
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