レーザービームの王子様
自分の席に落ち着いて、まずはお弁当をひざの上に広げる。

ウィングスの監督がプロデュースしたらしいこのお弁当。中年と言える年代だけあって、おかずはなんとなく健康に良さそうなラインナップだ。万年ダイエッターな女子にはうれしい低カロリー!


現在グラウンドでは、タイタンズの選手たちが試合前の打撃練習中。球場で食べるお弁当はおいしいなあと和みながら、もぐもぐひとり飯を食す。

と、何やら右隣りから、明らかな視線を感じた。ブリックのストローを咥えながら何気なく目を向けると、私の隣りの席に座っていた女性がじっとこちらを見つめていて。



「あらあら、もしかしてあなた、ひとり?」



私から口を開くより先に、にこにこと話しかけられた。

吸い込んだお茶をのどの奥へ流し込み、私は答える。



「あ、はい。ひとりですー」

「そうなの。こんな若いのに、女の子ひとりで野球観戦なんてすごいわねえ」



その言葉には、嫌味や嘲りはなく素直な感心しか含まれていないように思えた。

だから私も、にっこり笑顔で応じる。



「野球、小さい頃から好きなんです。ひとりでもへっちゃらですよー」

「あらーそうなのね。私は後から主人が来るんだけど、ひとりでは来れないわ」

「やってみたら意外と慣れますよー」



なんだかお上品な感じのおばさまだ。野球場より、美術館とか似合いそう。

普段着で着物を身につけていそうな雰囲気なのに、今はしっかりウィングスのレプリカユニフォーム姿。……しかも背番号6。この人も久我 尚人ファンか……。



「うふふ。練習風景見てると、わくわくしちゃうわよねぇ」

「そうですねー」



エキサイティングシートに座っておいて今さらウィングスファンじゃないですなんて言えないけど、女性の言葉には同感なので素直にうなずいた。

ただ今の時刻、17時15分。試合開始まで、あと45分だ。
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