レーザービームの王子様
「すみません、すぐ帰りま──」

「よ、よかった、まだいた……っ」



目の前まで来たスタッフさんが、私の言葉をさえぎってホッとしたように笑みを見せた。

……ん? 『よかった』?

てことは、帰宅を促しに来たわけじゃないの?


スタッフさんはまだ若い人だ。きっと年齢は私と同じくらいじゃないかな。

ふわふわの茶髪パーマに、それほど高くない身長。笑うとへにゃって眉毛が下がって……なんか、ワンコ系って感じ。



「あの俺、このドームのスタッフなんですけど! ある人にあなたのこと呼んで来いって言われたんで、一緒に来て欲しいんです」

「え? “ある人”?」



訝しく思い、私はつい聞き返す。

なに、そのワケありな感じ。なんとなく嫌な予感なんですけど。


私の考えを察したのか、ワンコ系スタッフはあわてた様子でぶんぶん両手のひらを振った。



「あ、あのっ、別に俺もその人もあやしいものじゃなくて! え、えと、とりあえずここはまだ人目があるんで、俺についてきてもらっていいですか?」

「……それ、断れるの?」

「う、すみません。そうすると俺がめっちゃ怒られちゃうことになるんで、一緒に来ていただけるとありがたいです……」



私と10cmくらいしか身長差がない彼が、しょぼんと肩を落としながらすがるような眼差しで見下ろしてくる。


……なんか、かわいそうになってきた。

この人は、頼まれて来ただけみたいだし。なんか文句があったら、今の時点であやしさ満点な“ある人”に会ってから言えばいいか。


ひとつため息を吐いて、私は目の前のワンコ系スタッフを見上げた。



「わかりました。ついて行きます」

「えっ、ほんとですか?! よかったあ……これでケツバットされなくて済む……」



心の底からホッとしているような彼がなんだか不穏なことをつぶやいた気がするけれど、とりあえず今は触れないでおく。

こんな善良そうな青年からここまでおそれられてるなんて……一体何者なんだ、“ある人”。

さっそく後悔しかけながらも、私は彼の後を追ってスタンドの階段をのぼり始めたのだった。
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