レーザービームの王子様
ぐっと、下くちびるを噛みしめる。



「す、みません。変なことを──」



自分の発言を取り消そうと顔を向けかけた瞬間。

不意に、頭の上に手を置かれた。


ぽん、ぽん。ゆっくり、やさしく弾む手のひらは、間違えようもなく今目の前にいる人物のもので。

思わずぽかんと見上げた私に、久我さんがやわらかく微笑む。



「うん、そうだな。あんたのせいじゃない」

「──、」

「だから何か言って来るまわりなんて気にしなくていいし……俺は居酒屋で威勢良く突っかかってきたすみれのことも、嫌いじゃないよ」



胸が詰まって、何も言えなかった。

それっぽく、長ったらしいセリフを尽くさなくても。なんて、心に響く言葉なんだろう。


私って、こんなに弱い人間だった? じわりと涙腺が刺激されそうになるのを、またもやそっぽを向くことでなんとか堪える。



「……まだ2回しか会ったことないあなたに言われても」



口から飛び出して来るのは、やっぱりかわいげのない言葉だ。

それでも久我さんは、くすりと笑みをこぼす。



「まあ、そうだな。俺じゃ説得力ないか」

「……でも、ありがとうございます」



目は合わせられないままだけど、なんとかそれだけは言えた。

一瞬驚いたような間があったけど、「どういたしまして」と穏やかな声が降ってくる。
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