レーザービームの王子様
今日は思いもよらないことばかりで、頭の中の処理が追いつかない。

……勝手なイメージで相手を測っていたのは、自分の方だ。

久我 尚人という男は、こんなにも、あたたかい心を持った人物だったのに。



「さて、そろそろここを出ないとな。帰り道わかる?」

「何回ドーム来てると思ってるんですか。なめないでください」



両手を腰にあててわざと偉そうに言えば、やっぱり久我さんが笑う。



「さすが。じゃ、家まで気を付けて」

「……はい」



答えるのに少しだけ間が空いてしまったのは、断じて『さみしい』とかそういう気持ちからじゃない。

……けど、きっと。この人とこうやって話すことはもうないんだろうなって。

きっと、これが最後なんだろうなって。

そう思ったら、少しだけ、ほんのちょっとだけ、……残念、だなって。



「すみれ」



不意に名前を呼ばれる。

テーブルの上のバッグに柴沼さんがくれたビニール袋を入れながら振り向くと、真顔の久我さんがこちらを見ていた。



「はい?」

「すみれ、ほんとに彼氏いない?」

「……なんですかそれ。いないって言ってるじゃないですか」



つい拗ねたような表情になる。これ以上自分の失言を抉られて、一体何だというんだ。

すると久我さんは、1歩こちらへと近付いて来て。
< 46 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop