レーザービームの王子様
◇ ◇ ◇
──久我 尚人。プロ野球団・東都ウィングスに所属する、入団5年目の26歳。身長185cm、体重82kg。
50m5秒台の俊足と強肩が持ち味の外野手。大学1年の秋までは投手として活躍していたが、肩の故障を期に野手として試合に出場することが多くなり、プロ入り後は完全に野手へと転向した。
当初は怪我や打撃不振により2軍での生活が続いたものの、入団2年目後半から徐々に1軍での出場機会が増えベンチ入りメンバーに定着。昨シーズンは全試合出場を果たすとともに守備の安定感も評価され、自身初となるゴールデングラブ賞も受賞した。
その俊足、打撃センスの高さから、今シーズンはトリプルスリーも期待されている──。
「えーちょっとちょっとすみれちゃん、なんかよくわかんないけどすごい人だったんだねあのお客さん! やっぱサインもらっといたかったなあ」
「……むっちゃん、一応接客中になに見てんの?」
「え、ウィキペディア」
ダメでしょうそれは……とは思うけれど、本人がなんだか楽しそうなので口には出さないでおく。まわりの従業員さんもお客さんも気にしてなさそうだし。
「うわ、しかも久我選手って、父親がスター製薬の社長なんだって! てことはつまり、本来は御曹司ってことでしょ?!」
「それは俺も聞いたことある。なんで素直に親の会社継がないで、成功するかもわからないプロ野球選手を選んだのかね」
自分で言っておきながら興味なさそうにグラスの氷をカラカラ鳴らすのは、我が腐れ縁の幼なじみ尾形 総司だ。
いつになく冷えた眼差しを、総司はそのまま私にスライドさせる。
「つーか、ほんと驚きなんだけど。すみれあんだけ久我のこと扱き下ろしてたのに、連絡先交換するとか」
彼の声音に呆れを感じた私はうう、とつい言葉に詰まって、手元のコースターに視線を落とした。