レーザービームの王子様
久我さんからチケットをもらい、東都ドームに行ってから約1週間後。

ここは四十代の自称ナイスミドルが大将を務めるいつもの居酒屋、【むつみ屋】のカウンター席だ。

前回来たのはド平日だったけど、今日は日曜日。こんなに間を開けず総司とこのお店に来たのは、久々だ。

まあ、今回は飲むことが目的じゃなくて、私としてはごはんがメイン。……とはいえ隣りからの視線が気になって、さっきからお酒も食べ物ものどを通りにくい。



「なんていうか……自分でもちょっとテンションおかしくなってたんだと思う。試合観戦の後で気持ちが高ぶってたというか」

「ふーん。それで、相手があんまり知らない男なのに連絡先教えたんだ? しかも、プロ野球選手」

「いやだから、そのときはあんまりそういうこと考えなかったんだってば」

「ちょちょちょ、見てこれ久我選手って推定年俸1億5千万だってよ……?! なにこれ二十代でこんな大金手にしてどうするんだろうね??!」

「むっちゃんちょっと黙ってくれる?」



なんだか、今日の総司はどことなく不機嫌。

……いやまあ、理由はわかってる。私の浅はかな行動に呆れてるんだ。


だって、今になって自分でもあの日のことはまずかったかなあと思うのだ。ちょっと話しただけで相手を信用して、簡単に連絡先を教えたりするなんて。

それも、相手は有名人──プロ野球選手。華やかな世界にいる彼らとうかつに関わるのは、なんだか危険なかおりがするような。
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