レーザービームの王子様
閉め切られた窓の外から、雨が激しく地面を打つ音が聞こえた。
重くよどんだ雰囲気。耳をかすめる大人たちのひそめた声。
そして、……濃い、線香のにおい。
私は、この空気を知ってる。
白くもやがかかった煙たいその空間の中。目の前に、ひとりの男の子がいた。
橙李お兄ちゃんが通っていた高校と同じ、宮ノ森高校のブレザー姿だ。
……じゃあ、この人は、お兄ちゃん?
違う。お兄ちゃんは“私”の後ろにそびえる祭壇──その中心の花に囲まれた写真の中で、静かに笑っている。
……なら、この人はだれ?
男の子は“私”の前の畳にひざをつき、うなだれるようにして顔を伏せていた。
畳の上で固く握られた手はかすかに震えていて、この人も、兄の死を深く悼んでいるのだとわかる。
『──……じゃあ、───りに、あなたが───ってよ……!!』
中学の頃のセーラー服姿で仁王立ちする“私”。
お母さんが傍らで制しようとしているけど、それに構わず泣きじゃくりながら何かを言い放った。
ぴく、と、目の前の男の子が身体を震わせる。
うつむいていてずっと彼の表情は見えなかったけれど、スローモーションのような緩慢な動作で首が持ち上がっていく。
涙でにじむ視界の中、黒い前髪の下からその顔があらわになろうというところで──……馴染みのあるアラーム音が鳴り響き、ブツリと映像は途切れた。
代わりに、開いたまぶたの隙間から見慣れたスカイブルーのカーテン。ここは自分の寝室。そしてもう、朝だ。
「………」
未だアラームが鳴り響く中ベッドの上で半身を起こし、どこを見るでもなくぼんやりする。
そして私は、寝ぼけ眼でつぶやいた。
「……なんの夢、みてたっけ」