レーザービームの王子様
軽い調子でむっちゃんは言うけど、これって私からすると結構一大事だ。

恥ずかしながら彼氏いない歴イコール年齢のわたくし深町 すみれ、自慢じゃないけどひとりで年頃の男性のお宅訪問なんてしたことありませんわよ?? 腐れ縁の総司は別として!



「無理無理無理……っ今をときめくプロ野球界のスーパースターを自宅に送り届けるなんてそんな重要任務私には荷が重すぎる……!!」

「すみれちゃん、ちょっと大ゲサすぎじゃない? 別にSPやれって言ってるわけじゃないんだからさあ」

「何言ってんのむっちゃん、この人ひとりの存在でグッズやらイベントやら一体どれだけのお金が動いてるとお思いに??!!」

「汚い汚い。いきなり話がキタナイ」



そんなやり取りをしているうちに、お店の出入り口から「すみませーん、久我さまをお迎えに上がりましたー」と中年のタクシードライバーさんがひょっこり顔を出した。

あああ……! 全然話まとまってないのに!!



「ほらほらすみれちゃん、とっととその人連れて帰ってくれる?」

「だんだん遠慮なくなって来てるし……!」



片手を振ってしっしと追い出すジェスチャーをするむっちゃんに思わず抗議したところで、それまで黙っていた久我さんが動いた。

ガタ、と椅子を後ろに出したかと思えば、ジーンズの後ろポケットからおもむろにお財布を取り出す。

そして中から万札を3枚引き抜き、無言でむっちゃんに差し出した。



「お、まいどー。ちょっと待ってね今おつり、」

「いらない」



掠れた声だけど、ハッキリ聞こえた。

むっちゃんは一瞬きょとんとした後、苦く笑う。
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