レーザービームの王子様
「ふわあ……」



目の前の建物を見上げながら、思わず感嘆の声がもれる。

今にも寝落ちしそうな久我さんのナビのもと、たどり着いた彼の自宅。

それは駅からもほど近い、好立地のタワーマンションだった。


さすが、プロ野球選手はいいとこ住んでる。このマンション30階建てくらい? 私なんて2階建てのアパートですけど!



「久我さん、着きましたよ」



とりあえず一旦車外に出て、顔を覗き込みながら声をかけてみる。

相変わらずぼんやりしつつも久我さんは素直にタクシーを降りたので、ほっと胸を撫でおろした。


よしよし、私のミッションこれで終了。さっさと家に帰って寝よう。

そう考えてタクシーの後部座席に戻ろうとしたのに、がしりと左腕を掴まれてそれは叶わなかった。



「久我さん?」

「………」



私を引き止めた人物とは、言うまでもなく久我さんで。

彼はどこかうつろな瞳でこちらを見下ろしながら、思いのほか強い力で私の腕を捕まえている。



「……もしかして、部屋まで連れて行って欲しいんですか?」



向けられた眼差しから予想をたてて口にすれば、久我さんは無言のままこくりとうなずいた。

いつだって自信に満ち溢れている彼の、そのしおらしい仕草。

思いがけないそれに、不覚にも胸がきゅんとしてしまった。


も、もう……。

これだから、顔がいい人は得だな!



「……すみません、私もここで降ります」



頭の中で言い訳しながら、私はタクシーの運転手さんに運賃を支払う。

ちなみにそのお金は、久我さんのポケットから勝手に拝借したお財布をこれまた勝手に使わせていただいた。これくらい許されると思う。
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