レーザービームの王子様
止んだと思っていた雨が、またパラパラ降り出して来た。

再度よたよたと久我さんの身体を支えつつ、マンションの入口に向かう。

自動ドアをくぐり抜けてエントランスに入ると、こんな立派なマンションなら当然ながらオートロックの操作盤があって。立ち止まった私は、ちらりと隣りの久我さんを見上げてみる。



「………」

「はいはいはい……」



無言で財布を渡され、おざなりに返事をしながら再びそれを受け取った。

中からカードキーを見つけ、操作盤に通して自動ドアを開ける。


……さっきは私の方から拝借しちゃったけど、こうも簡単にお財布を渡されると、なんだか変な気分だ。

ちょっと、いくらなんでも私のこと信用しすぎじゃない? まだ会って間もないっていうのに……。

まあそれは、こっちにも言えることか。相手が泥酔状態とはいえ、こんなところまでついて来ちゃってるもんなあ。


エレベーターに乗り込む前、さっきと同じように横顔を見上げてみた。

気付いているのか、いないのか。どちらにしろ、「もうここまででいいよ」、なんて言って来る雰囲気はない。

有名人が、そんな簡単に自分の住んでる場所知られちゃっていいの? 今後押しかけられるかもとか、誰かにバラされるかもって思わないのかな。いやするつもりないけど。



「………」



どんどん上がっていくエレベーターの階数表示を眺めながら、今になって緊張して来た。

私今、ウィングスの久我 尚人と一緒にいるんだよなあ。というか、家にまで来ちゃってるんだよなあ。
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