レーザービームの王子様
「う、あ、お、おふろ、入って来たから……」



ひたすら身体を硬直させながら、震えた声を発する。

いや私、なに律儀に答えてんの。しょせん酔っ払いの戯言だし。とりあえず家の中には届けたんだから、このまま放置してさっさと帰ればいいのに。


そうは思うけれど、固まったまま身体は全然動かないし、ちゃんとしゃべることもできない。

そっか、と、首筋あたりで久我さんがほとんど吐息みたいな声音でささやいた。

ささやいて──そのくちびるが、やわらかく私の鎖骨を食む。



「ッひゃ、」



──ぴく。突然の刺激につい変な声をもらしてしまった瞬間、久我さんの動きが止まった。

異変を感じて、私は瞑っていたまぶたをそろりと開ける。

そんな私を前に、ゆっくり、緩慢な動きで、久我さんが顔を上げた。



「……え、すみれ?」



アルコールのせいか、まだ少し赤くなってる目元。

こちらを見下ろす端正なその顔には、心の底から戸惑っているような表情が浮かんでいて。


……ん?



「……久我さん?」

「俺、え、あれ……?」



それまでずっと掴んでいた私の手首をようやく離し、彼はひとりごとをもらしながら自分のその手でひたいを押さえる。


……んん?
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