レーザービームの王子様
「……っ」



高級感ただよう廊下を、似つかわしくない大股でずんずん闊歩する。

私は、ご機嫌ナナメな子どもみたいにひたすら下くちびるを噛みしめていて。


なんなの。なんなの久我さん。

あんなふうに触って。ヒトのこと、さんざんドキドキさせといて。

……いや、違う、間違った。ドキドキなんてしてない。ただの気のせい。あんなの、気のせいだ。


久我さんのくちびるが触れた、鎖骨のあたりを手のひらで押さえる。

そんなわけないのに、妙にその場所が熱くなってしまっている気がして。エレベーターを目指す足を止めないまま、私はこっそり困り果てるのだった。


──そして、次の日のナイター。自分の発言通り久我さんがフライを取り損ねた話をスポーツニュースで知った私は、『やっぱり野球の神様っているんだな』と信仰心を新たにしたのでした。
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