毒舌王子に誘惑されて
1.人生にはまさかと言う名の坂がある
「佐藤。 ちょっといいか」
編集長に呼ばれ、フロアの奥の会議室へと向かう私の足取りは軽やかだった。
待ち望んでいた日がとうとう来たのだと信じて疑いもしなかった。
ストライプのシャツにノーネクタイ。
趣味のいいジャケットを羽織った編集長は40代も半ばだけど、中年太りなんてしてなくて、まだまだ現役の格好良さを維持している。
さすがは人気ファッション誌サブリナの編集長よね。
「副編集長の林の後任の件なんだが・・」
きた。
きた、きた、きたー。
私はこの日を待ってたの。
「まだ若いけど、小清水を抜擢しようと思うんだ」
ありがとうございます。
精一杯頑張ります。
用意していた言葉が口から出そうになったけど、慌てて飲み込む。
うん??
いま、何て言った?
小清水さんて、あの小清水さん?
私より2つも後輩の!?
絶望で目の前が真っ暗になる。
ーー後輩に先を越された。
この事実だけでも崖から突き落とされた気分なのに、編集長は非情にも更なる追い討ちをかけた。
「佐藤は週刊リアル編集部に異動が決まったから。来週からだから、頑張れよ」
ーー週刊リアル。
って、あのエロとラーメンと低俗ゴシップばかりの週刊誌よね。
あの雑誌、うちの出版社だったっけ?
何で、私が!?
編集長はその後も引き継ぎについて色々と話をしていたけど、ほとんど耳に入らなかった。
「人生にはまさかと言う名の坂がある」
結婚式なんかで、センスの欠片もないおっさんがよく言うあの格言。
今日ばかりはものすごく身に染みる。
佐藤 美織 30歳、思いがけないまさかに遭遇してしまいました。
編集長に呼ばれ、フロアの奥の会議室へと向かう私の足取りは軽やかだった。
待ち望んでいた日がとうとう来たのだと信じて疑いもしなかった。
ストライプのシャツにノーネクタイ。
趣味のいいジャケットを羽織った編集長は40代も半ばだけど、中年太りなんてしてなくて、まだまだ現役の格好良さを維持している。
さすがは人気ファッション誌サブリナの編集長よね。
「副編集長の林の後任の件なんだが・・」
きた。
きた、きた、きたー。
私はこの日を待ってたの。
「まだ若いけど、小清水を抜擢しようと思うんだ」
ありがとうございます。
精一杯頑張ります。
用意していた言葉が口から出そうになったけど、慌てて飲み込む。
うん??
いま、何て言った?
小清水さんて、あの小清水さん?
私より2つも後輩の!?
絶望で目の前が真っ暗になる。
ーー後輩に先を越された。
この事実だけでも崖から突き落とされた気分なのに、編集長は非情にも更なる追い討ちをかけた。
「佐藤は週刊リアル編集部に異動が決まったから。来週からだから、頑張れよ」
ーー週刊リアル。
って、あのエロとラーメンと低俗ゴシップばかりの週刊誌よね。
あの雑誌、うちの出版社だったっけ?
何で、私が!?
編集長はその後も引き継ぎについて色々と話をしていたけど、ほとんど耳に入らなかった。
「人生にはまさかと言う名の坂がある」
結婚式なんかで、センスの欠片もないおっさんがよく言うあの格言。
今日ばかりはものすごく身に染みる。
佐藤 美織 30歳、思いがけないまさかに遭遇してしまいました。