毒舌王子に誘惑されて
葉月君に注意されてからヒール高めのパンプスは避けてたけど、今日くらいはいいかな。
自分を奮い立たせる何かが今の私には必要だ。


久しぶりにヒールの靴に足をいれると、自然と背筋がすっと伸びた。


「よしっ。今日も頑張るか」


漫画やドラマのヒロインのように、落ち込んだ時に都合よく助けてくれて優しく慰めてくれるヒーローなんて私にはいない。

自分の力で立ち直るしかないんだ。

だからこそ、私くらい私の味方になってあげなくちゃ。
見放さないで最後まで付き合ってあげよう。


「頑張れ、私」

小さな声でそう呟いて、穏やかに晴れ渡る空を仰ぎ見た。



「おはよう」

「おはよーございま・・・」

葉月君の顔が固まった。かと思ったら、次の瞬間には盛大に吹き出した。
私がジロっと睨みつけると、かろうじて笑いやんだものの口に手をあてて必死に堪えている。

「何すか、その顔。よくそれで電車乗りましたね」

「昨日はごめんなさい。それと、怒ってくれてありがとう。
葉月君が怒ってくれなかったら、私二度とここに顔を出せなかったと思う」

まっすぐに葉月君の顔を見て、そう言った。
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