毒舌王子に誘惑されて
頑張ってお洒落してきたって思われるのは癪で、カジュアルにしてきたけど・・
六本木に行くにはリラックスし過ぎかも知れない。

手で髪をハーフアップにしてみる。
せめて、髪はまとめてくればよかったかも。
胸まであるストレートの髪は、洗いざらしというか、梳かしただけで出てきてしまった。



待ち合わせ場所に近づくにつれ、足が重くなっていく。

葉月君がいなければいいと思う。けど、本当にいなかったら悔しい気もする。

向こうが一方的に決めた約束なんだから少しくらい待たせたっていいはずなのに、融通の利かない私はぴったり時間通りに改札前に到着してしまう。

土曜日の六本木駅は若い子から家族連れまでたくさんの人で賑わっていた。

私はぐるりと周囲を見渡す。

改札前に一人の男性は数人いたけど、どれも葉月君じゃなかった。

ふーと大きく息を吐くと、妙に緊張していた身体から力が抜けた。

「なんだ、やっぱりからかわれただけかぁ・・」

思ったよりショックは受けていなくて、むしろほっとした気持ちの方が強い。

そうだよ、葉月君とデートなんてどう考えたっておかしい。
私達は会社の先輩と後輩。それだけの関係なんだから。

さっ、葉月君が来ていないことがわかれば六本木に用はないし、もう帰ろう。

そう思ってくるりと向きを変えたところに、見覚えのある茶色の瞳と視線がぶつかる。
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