毒舌王子に誘惑されて
数歩先にいた葉月君が立ち止まって、高層ビルを見上げた。


「オフィス街の夜景って綺麗なんだけど、まだこんなにたくさんの人達が残業してるのか〜とかって考えちゃったりしません?」

「それ、すごいわかる!! 中で働く人のことを考えちゃうと無邪気にはしゃげなくなるよね。 明日は我が身だしさ・・」

「俺たちは圧倒的に夜景を作る側に回ってることが多いですからねー」

そうなんだよね。 入社以来、クリスマスもバレンタインも世間の人が夜景を楽しむような日はほぼ100%で仕事してた気がする。

「でもさ、逆に自分が残業してる時は窓の外にたくさん灯りが見えると、なんか励まされない? 他にも頑張ってる人がいっぱいいるんだって思うと、元気出るんだよね」

私がそう言うと、葉月君はふっと柔らかく微笑んだ。

「美織さんらしいっすね。どんな時でも張り切ってる感じが」

「また人を馬鹿にして・・」

私は葉月君をジロリと睨みつける。

「いや、いいなぁと思って。 今度から俺もそう思うことにします」

まっすぐにこっちを見た葉月君と視線が交わる。

その視線に囚われたように、私は目を逸らせなくなった。
葉月君もじっと私の目を見つめている。

ドクンと心臓が大きく跳ねた。
トクトクと全身の血液が心臓に向かって流れてくる音がはっきりと聞こえる。
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