毒舌王子に誘惑されて
私達の間を流れる空気にとろりと甘いものが混ざったように感じる。

葉月君の身体がゆっくりと私に近づく。
長い腕が私の肩を引き寄せ、そのまま背中に回された。

私を見つめている葉月君の瞳が熱を帯びる。 多分、私の瞳もーー。


ーーあぁ。もう言い訳できないや。

私は葉月君を男の人として強烈に意識してしまっている。

今だけじゃない。今日はずっと、目が合う度に、肩が触れる度に、息苦しい程に心臓がドキドキしていた。

交わした会話の一言一言だって鮮明に思い出せる。葉月君のくれた何気ない言葉が嬉しくて、胸が締めつけられた。


これが恋になるのかはまだわからないけどーー。



葉月君の唇がそっと私の上唇をかすめた。軽く触れただけの優しいキス。
それだけで、ぞくりと全身が震えた。

ゆっくりと離れて、もう一度近づく。

今度はずっと深いキス。私より体温の低いひんやりした舌が口内を撫でる。

甘く痺れるような刺激に、頭が真っ白になる。熱に浮かされたように、身体中の力が抜けていく。

「大丈夫?」

鼻が触れ合う距離で葉月君が囁く。

「ーー大丈夫じゃない。 もう、無理」

喘ぐように、そう訴えた。
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