毒舌王子に誘惑されて
ーー時間大丈夫だったら、軽くお茶でもしないか?
裕司にそう誘われて、私達は近くのカフェに入った。
「うん、今月からまた本社勤務で古巣の本社営業部に戻ってきたんだ。美織は相変わらず休日出勤か〜」
「そっか。 シンガポールに行って、もう3年も経ったんだね・・」
「思ったよりは早く戻ってこれたけどね。 楽しかったんだけど、あれ以上いたら真っ黒になっちまうとこだった」
以前はどちらかと言うと色白だった肌は小麦色に焼けて男らしさを増していた。
裕司はシンガポールの暑さや食事、向こうでの仕事のことなんかを楽しそうに話してくれた。
「ごめん。なんか、俺ばっかり喋ってるよな。美織、時間平気? 夜なんか予定あった?」
私はクスッと笑って、首を振った。
本当にちっとも変わってない。
裕司はこうやっていつも自分以外の誰かのことばかり考えている人だった。
優しすぎるくらいに、優しい人。
そういうところが私は大好きだった。
私の勤める白英社と裕司の勤務先である総合商社は大通りを挟んだ向かい側にある。私達はともに近くの定食屋の常連で、会えば会釈をする程度の仲だった。
そんな私達が恋人同士になったのは裕司からの突然の告白がきっかけだった。
『ずっと仲良くなりたいって思ってました。 もし良ければ、俺と付き合ってくれませんか?』
私の方もずっと素敵な人だなって思ってたし、まっすぐな告白がすごく嬉しくて私達は付き合い始めた。