毒舌王子に誘惑されて
裕司は本当に理想的な恋人だった。

いつも穏やかで優しくて、私の仕事にも理解があった。
私は彼との未来を疑わなかったし、裕司も同じように思ってくれていたと思う。

それが崩れたのが、3年前に裕司のシンガポール転勤が決まった時だった。

一緒に行こうとプロポーズしてくれた裕司に私は即答できなかった。

裕司のことは大好きで、もちろん結婚も夢見てた。

けど、自分がシンガポールに行くことは全然イメージ出来なかった。

仕事を辞める自分の未来なんて、それまで想像もした事がなかったから。

プロポーズを受けて固まってしまった私に、裕司は優しい笑みを浮かべて言った。

『ーー迷うくらいなら止めておいた方がいいんだろうな。ごめんな、困らせて。
仕事、頑張れよ』

別れたくなんかない。

それは本心だったけど、じゃあ何年後なら一緒にシンガポールに行けるのか、その答えが見つからなくて、私は何も言えずに裕司を見送った。

嫌いになったわけじゃない。
はっきりと別れを告げたわけでもない。

だけど、3年前のあの日に私達の歩く道は完全に別れてしまって、もう交わることはないと思っていた。
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