毒舌王子に誘惑されて
「ところで、葉月君。 これは一体何の仕事なのかな?」

私達は港区の億はするであろう超高級マンション前に黒のミニバンを停めて、中で食事を取っているところだ。
目立たないように、二人とも後部座席に座っている。


「張り込み取材ってやつですかね」

「大きな事件なの??」

凶悪犯罪、汚職事件、新聞の一面記事を飾るようなキーワードが頭に浮かんだ。

「でかいネタですよ〜。民放人気No.1女子アナの不倫疑惑ですから。
しかも相手は大物俳優の京堂 忍。
写真が押さえられれば、トップ記事間違いなしです」

女子アナ、不倫、大物俳優・・・

気の抜けた声で緊迫感のない答えを返され、思わず溜息がこぼれた。

「世の中の人って、女子アナの不倫にそんなに興味あるもの?」

明らかに馬鹿にしたような口調。

ーーしまった。

そう思ったけど、遅かった。

葉月君が睨みつけるような冷たい眼差しを私に向ける。
その目にはわずかな軽蔑の色が浮かんでいた。

「まぁ、今年の春の新作コスメが知りたいって人と同じくらいはいるんじゃないですか?」

葉月君は冷たい目をしたまま、薄く笑う。

『この春イチオシの新作コスメ』は今月号のサブリナの巻頭特集だ。

これ以上ないくらいの嫌味を返され、私は何も言えなかった。
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