毒舌王子に誘惑されて
私はしばらく考えて、ゆっくり首を振った。

「3年前にちゃんと向き合わなかったことは後悔してる。 けど、今やり直したいかっていわれると・・違うような気がするんだよね」

「けどさー、私達もう30だよ!! 結婚だって考えてないわけじゃないでしょ?裕司君なら相性がいいのは十分わかってるし、最大の問題の転勤だって単身赴任してもらうって手もあるしさ」

風子はグラスのワインを本当に水のように一気に飲み干すと、私が口を挟む間もなく話を続ける。

「葉月君にしろ別の誰かにしろ、今から新しい人と一から関係を築いていくって大変だよ〜。
付き合ってみて初めてわかる一面って絶対にあるしさぁ」

妙に実感のこもった口調で言うと、一人でうんうんと頷いている。

「ーー例の彼氏の知らない一面が見えちゃった?」

私は反撃を試みてみる。風子は最近、高校時代から10年以上友達だった人と付き合いはじめたばかりだ。

「うっ。まぁね〜腐れ縁で何でも知ってるつもりだったけどさぁ」

「何があったのよ?」

「聞いてくれる?あいつさー、私の漫画コレクションを捨てろって言い出したんだよ!? 付き合う前は何も言ってなかったのにー」

「なんだ、そんなこと・・心配して損しちゃった」

呆れ顔で言った私を、風子はきっと睨みつける。

「そんな事じゃないわよっ。あのコレクションは私の人生そのものなんだからねっー」

「はい、はい」

文句を言いつつも、彼のことを話す風子の表情はすごく幸せそうで微笑ましい。

私達は取り留めもなく話を続けながら、お皿の料理を平らげていく。
風子はワインを軽く1本分くらいは飲んだように思う。
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